*** 2010年10月1日 屈斜路湖/摩周岳 ***
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10月1日(金)6:20、さわやかな目覚めである。ホテル最上階の部屋からは、正面の中島を挟んで、雄大な湖面が広がっている。大山さんが、朝風呂から戻ってきたので、早速朝食前に、湖畔の散歩としゃれこむ。朝露の降りた庭を通り抜け、湖畔に立つと、目の前に遠浅の湖底が確認できる。嘗て、未確認生物"ネッシー"ならぬ"クッシー"で名を馳せたが、そのような生物が潜んでいるような気配は、全く感じられない。Wikipediaによると、各所で硫化物を噴出しているため、湖全体が酸性化し、その度合いもPH5程度とか。従って、大型生物が生育できる環境でないのは、確かであろう。 8:10、ホテルを出発し、絶景ポイント・美幌峠に向かう。駐車場に車を停め、展望台に向かって行くと、何故か"美空ひばり"の記念碑が立っている。理由は簡単、彼女が演歌"美幌峠"を歌ったためだが、石碑の歌詞に加えて、馴染みのない歌声も聞こえてくる。碑文には、"あなたを忘れる旅だけど、霧が心を惑わせる。・・・ああ、さいはての美幌峠に霧が降る。・・・"とあり、元来霧が発生しやすい場所なのだろう。だが眼下には、屈斜路湖が、惜しげもなく優美な姿を見せている。 遥か南方には、蛇のような形をした和琴半島が望める。超望遠で周辺を探ると、見事な波紋が朝日に輝いている。ここで、クッシーが横切れば、正に特ダネであるが、湖面は静かな佇まいを見せたままである。足元には、色付き始めた"チシマフウロ"が、枯草に彩りを添えている。見上げると、北の空には斜里岳(標高1545m)、南には摩周岳(標高857m)が霞んで見える。 9:20、ここから硫黄山に向かう。駐車場に入ると、硫化水素の強烈な匂いが鼻を突く。登別・地獄谷,箱根・大涌谷より匂いがきつく、その分濃度も高いのであろうが、この猛毒ガスに注意を喚起する看板は、どこにも見当たらない。所で、硫化水素のことを、マスコミでも「硫黄の匂い」と表現するが、元来"硫黄"は無臭であり、完全に間違いである。地下の高温/高圧状態では、硫黄(S)が水(H2O)と化合することにより、独特の臭気を発するる硫化水素(H2S)が発生する。これが、大気中に放出されると、急冷/減圧され、一部に逆反応が起きて、硫黄に戻ることになる。噴気孔周辺に硫黄が析出しているのは、このためである。一方、気体のままのH2Sは、分子量34と空気よりやや重いため、窪地にたまると、ここに迷い込んだ人間を、死に至らしめる。古くは、八甲田山,最近でも酸ヶ湯温泉の死亡例があるが、世界各地でも同様の事故が起きている。実際に、硫黄山の噴気孔の傍にも、多量の硫黄が析出しており、これからも、硫化水素の濃度が高いことを伺い知ることができる。所が、何とこの直近で、温泉卵を製造販売している老人がいらっしゃる。嘗て、ヤクザの資金稼ぎになったほど、利幅が大きいかもしれないが、先ずは、御自身の健康を、第一に考えるべきではなかろうか。ふと、西方の山を眺めると、斜面の木々が色付きはじめている。そこで、危険な硫黄山からは早々に退散し、紅葉撮影に向かうことにする。だが、その手前には、"ハイマツ"が覆い茂り、行く手を遮っている。結局、ハイマツ帯の中の通路を通って、見通しの利く 所まで進み、ここから超望遠で、見事な紅葉を撮影する。それにしても、このような低地の酸性土壌に、"ハイマツ"の大群落が有るとは、正に驚である。これは、"ハイマツ"が"イタドリ"以上に、劣悪な環境に強い植物であることを、証明していることにもなる。ここから、摩周岳登山口に向けて、車を走らせる。 11:05、摩周第一展望台に到着する。この脇の登山口から、湖を半周して、摩周岳を目指すことになる。標高差自体は、300m程度と大したことないが、片道7.2Kmの長丁場である。緩やかな坂道を10分ほど下ると、湖の南端に到達する。ここからは、静かな佇まいを見せる摩周湖が望める。昨日と異なり、正に魅惑の"摩周ブルー"が広がっており、これだけでも、本日摩周岳に挑戦した価値がある。50分ほど経ったであろうか、ふと足元に目をやると、見慣れない蝶が地面に留まっている。 二対の目玉のような斑紋が特徴的であり、見る角度によって、色相が微妙に変化している。WEB上で調べたところ、どうやら"クジャクチョウ"のようである。この先は、真っ赤に熟した"ナナカマド"の実が、多く見られる。嘗て、室蘭工大のS先生が、試しにこの実をかじった所、苦くて吐き出してしまったとか。やはり、"ナナカマドは、冬の野鳥達の貴重な餌として、取っておくべきものであろう。斜面を登り切ると、中間点の展望台に到着する。登山口からは1時間半、どうやら撮影で時間を取られたため、通常の1.5倍の時間がかかった模様である。ここから、摩周岳に向けて、スピードを上げる。 13:06、やっと摩周岳と西別岳(標高799.8m)との分岐点に到達する。東方に、緩やかな山容を見せる西別岳は、荒々しい摩周岳とは好対照をなす。ここから摩周岳山頂まで1.6km、一旦下ってから、外輪山に沿っての急登が始まる。30分ほど進むと、木々の切れ間から、雄大なすり鉢状の火口が顔を出す。直径は約1.5km、何と羊蹄山のお釜の優に2倍以上もある。火口壁に立つと、正に足が竦む思いだが、こんなところにも、"ハイオトギリ"や"コメツツジ"が、へばり付くように生えている。 この辺りから、更に傾斜がきつくなり、今回のカジュアルシューズだと、踏ん張りが利かず、ずり落ちてしまう。更に、ストックもないとあっては、中々ピッチもも上がらない。そこで、タフな大山さんに道を譲り、私は"ガマズミ"や"ヤマハハコ"等の写真を撮りつつ、ゆっくりと高度を稼いで行く。 14:10、急に視界が開け、終に山頂に到達する。眼下には、目の覚めるような"摩周ブルー"が広がり、正に感激の一瞬である。よく見ると、湖の深度によって微妙に色合が変化し、山影も写りこんで濃淡が生じている。一方、眼前には、第二ピークが望めるが、正にそぎ落とされたような険しい山容である。そのせいもあってか、登山道は摩周岳で途絶えており、本格的な装備と技術が無ければ、火口一周は困難であろう。東側には、先程の西別岳の火口が望める。ただ、その一部が浸食され、深い谷となっており、時の経過を実感できる。謂わば、摩周岳の兄貴分と言うところで、道南の山々に例えれば、尻別岳(兄)と羊蹄山(弟)の関係に似ている。14:30、満ち足りた気分で山頂を後にする。 16:45、やっと登山口に戻る。往復に要した時間は何と5時間40分、西の空は既に茜色に染まり、正に日没を迎えようとしている。そこで、この絶景を撮影するため、第三展望台に移動する。超望遠に交換すると、太陽が急速に西の空に沈んでいくのが確認できる。正に、"秋の日は釣瓶落しの如し"である。遠くの雌阿寒岳/雄阿寒岳も、徐々に色を失っていく。ここから、知床・ウトロに向けて、車を走らせる。 《走行距離》:167km(屈斜路湖⇒ウトロ)、 《歩行距離》;14.4km(摩周岳登山口⇔摩周岳)、《登りの厳しさ》:登山口~摩周岳直下(△~▲),摩周岳直下~摩周岳山頂(▲▲~▲▲▲) |